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私設の小売市場

『近代京都と文化』が刊行されました。650ページを越える大著です。これは、京大人文研において高木博志が主催した「近代文化と京都」班の成果をまとめた論集です。この中で、戦前の京都における小売市場を論じた、和田蕗・中川理「小売市場の普及に見る生活文化の近代的変容」という論考を収録してもらいました。高木博志によれば、この研究班・論集が目指したのは、「既存の観光言説や「京都文化論」を相対化し、批判精神に満ちたものにしたい」ということでした。本の帯にも「近代京都文化の不都合な真実」とあります。われわれの小売市場をめぐる論考では、明らかにするのに「不都合」なものを扱ったわけではないのですが、それでも多少とも批判精神を示すことができたのではないかと思われるのは、「私設小売市場」をあえて扱ったことだろうかと思います。日本近代の建築や都市空間をめぐるこれまでの研究は、基本的に「公」に関わるものでした。それは政治や行政が、建設行為を主導してきたことを考えればあたりまえのことです。しかし一方で、資本主義の進展、消費社会の成立という段階に至ると、都市空間の多くの領域が、「私」の企図で変化を遂げていくことになります。実際に、いまわれわれを取り囲み、実際に利用する空間の多くは民間の事業によって建設されたものになっています。そうした「私」側から築かれる施設の端緒の一つとしてあったと考えられるのが、行政による「公設市場」の後に、それをはるかに凌駕する数で設置されることになった「私設市場」だったのです。「公設市場」については公的施設の建設という観点から、さまざまな研究が進んできましたが、「私設市場」に言及することはこれまでほとんどなかったのです。それは史料的制約が大きかったのですが、和田蕗さんは、公設だけでなく私設市場も含む京都府商工課による膨大な記録(一部に建築図面も含む)を見つけてきました。われわれは、それをベースにして、新聞報道などのデータも加え、どのような主体が私設小売市場建設に加わって(投資して)いったのかを考察しました。まだ不十分な点も多いのですが、さまざまな論点が含まれています。



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