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住居法をめぐって(都市空間編成研究会5/12)

更新日:2023年9月11日

 今回の研究会(於<六録楼>)は、堀内啓佑さんに自身の博士論文「戦前の日本における住居法の検討過程に関する建築史的研究」と、現在進めている住宅営団東京支所による住宅建設事業について、新たに発掘した史料から明らかにした内容について発表してもらいました。戦前の都市空間に関わる制度設計という観点から、これまで(旧)都市計画法の制定に関わる研究はかなり進められてきました。しかし、その後の住居政策の根幹をなす住居法の制定については、さまざまな議論があったことは理解していましたが、断片的なものでしかなかったのかと。博士論文の研究は、その議論を徹底的にかつ網羅的に分析し一つの流れを把握したというもので、日本の近代住宅史、都市史を考える際にとても重要となる研究になっていることは事実です。

 とりわけ、中村寛(ゆたか)という内務省・技師に着目し、その活動や言説に住居法成立に向けた思想的な中核があったことを見いだした点がおもしろかったです。私が2年前、論集『空想から計画へー近代都市に埋もれた夢の発掘ー』(思文閣出版・2021年)を編んだのは、近代都市に理念や思想が持ち込まれる時には、必ず何らかの個人の活動というか活躍が存在しているという点に注目したかったからと言えます。やはり住居法の成立に向けても、そうした個の存在が浮かび上がってくるわけですね。しかし、住居法は最終的な形でまとまることは叶わなかったわけです。なぜか。一連の住居法に向けた紆余曲折の経緯を聞いていると、その背後にある理念や思想がだいぶ揺れてしまっています。勝手な感想になってしまいますが、そこに「夢」を描くような強い意志が不在だったと言えるのかなぁとか思いました。

 いずれにしても、住居政策をめぐるその多様な議論が、戦中・戦後の住宅政策および宅地開発にどのように繋がったのか。あるいは繋がらなかったのか、という観点からの分析が、今後は求められていくわけですね。それを考えるうえでも、後半の、住宅営団東京支所による住宅建設事業についも重要な研究になっていました。ただし、史料から抽出されリストで示された膨大な数の具体的な住宅地について、そこにどのような特徴を指摘できるのか、その分析方法については改めてこれから考えて行かなければならないでしょう。やはり建築史から登っていく(?)都市史、政策史は、最後には具体的な空間のあり方に降りていく(?)必要があるのでしょう。その降りていく時に、わくわくした面白さを感じるはずなのです。




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