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マンション耐震改修の可能性

 昨日、文化財修復構造技術支援機構(NPO ASSEC)の理事会を六録楼で開催しました。そこで、話題としてこのNPOを主導する西澤英和先生から日本マンション学会(2023京都大会)で発表したマンションの耐震改修について発表した内容について、改めて話をしてもらいました。1981年の新耐震規準以前に建設された築後40年以上のマンションについて、何らかの耐震改修が必須となっているのだけど、それには莫大な改修費用がかかる。だから建て替えるしかない。・・というのが今起こっていることなのだけど、それはあまりにも不合理なことではないか。マンションでは、修繕積立金を徴収しているのだから、その積立金の範囲内でできる耐震改修法を考えるべきではないかというのが、西澤先生の主張。そこで、新たな耐震改修の方法を独自に創出したのです。

 現在耐震改修では筋交いをいれる、つまりあのバッテン印を窓や開口部に加えていく方法が一般的。これは工費がかかることもあるが、加えてそれにより空間が閉じ込められるような印象となりマンションの場合には住民から不評で、しかも建物の外観のデザインもかなり情けないものになってしまう。そこで、西澤先生たちは、主にスチールを使い、柱梁の構造で省かれてきたハンチ部を補強するという新たな方法を考えた。これだとコストもものすごく低減できるし、建物に閉塞感を与えることもなくなる。そして、すでに実際に京都市内マンションでこの耐震改修をいくつも実現させている。

 ASSECは、文化財修復を支援するNPOとして立ち上げられたものなのだけど、西澤先生は、新耐震前にも日本中に大量に作られたマンションも、すでに日本の戦後の建築文化の一つを示す文化財になっているのではないかと。だから、それを壊すのではなく、修復する方法を開発するのは重要なわれわれわの課題ではないかとしているのです。建て替えないで維持したとしても、あのバッテン印の改修では、日本のマンションが持ち得た集合住宅の特徴的なデザインを無残なものにしてしまう。確かに、西澤先生らの改修方法は、日本の古いマンションを、文化として維持していく方法を提示してくれていると言えるのかもしれません。

 ただ、私にはその方法には、もっと別の可能性も見えてくるのではないかとも思えるのです。写真は、私の住まいの近所に、その西澤先生の方法で耐震改修したマンションです(京都市左京区、筆者撮影)。補強部分には、あえて塗装は行わず、そこがかなり目立ったものになっています。しかし、1階の店舗部分のハンチ部を見ればわかると思いますが、そこに円形の穴をあけたりして、明らかなデザインが施されています。西澤先生によれば、それは採光のためだとのことですが、スチールによるアーチを付加することは、そのことだけでも、無装飾のモダン・デザインに何らかの装飾要素を加えたことになっているわけで、そこに細かい装飾的な細工も加えているわけです。大げさに言えば、(広い意味での)アール・デコの再来のようなことが起こっているようにも思うのです。大量に造られてきたマンション建築が、新たな装飾的細部で補強されることで、違ったデザイン的魅力を持って維持されていことができるのかもしれません。そんな可能性も感じてしまったのですが。どうでしょうか。




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