TBSの「海に眠るダイアモンド」がすごいのです。野木亜紀子の脚本がすばらしいし、キャスティングも、佐藤直紀の音楽もすばらしい。・・・しかし何よりもすごいと思わせるのは、空気感のようなものまで伝えている空間の映像です。もちろん、1950年代まで遡った端島(軍艦島)を描くわけですから、今は廃墟となった島を現役の時代の風景に戻さなければならないわけで、当然ながらVFXが使われるわけです。VFXの技術的進化は言うまでもないことで、初回の、廃墟の端島がだんだんと現役の端島に戻っていくのを俯瞰で捉えたシーンには鳥肌が立ちました。
しかし、VXFが難しいのは、その影像の中にリアルな役者の演技が重ねられた場合に、それをどのように合成させるかなのですね。これまでは、リアルな影像を先に制作し、そこにVFXをはめ込む方法がとられてきました。それが技術的限界かと思われた。でもそうすると、カメラの画角はリアルとCGで狂う事も出てくるし、正確に画角を合わせると、つまらない画角のCG画像になってしまうこともあるわけで。そこで、本作では「インカメラVFX」という方法が採られています。LEDウォールというものを使って、リアル側の撮影現場で、カメラの画角に連動するCG画像を背景にしながら撮影するという、すごい技術が使われているのだそうです。
もちろんVFXがいらないシーンも多いわけで、それは全国をロケハンして探し出した、かつての端島と似た景色の場所を使ったり(このロケハンはたいへんだったでしょう)、スタジオセットも使っています。ここで重要なことは、そうした場面でも時代のリアリティに徹底的にこだわった景色(担当デザイナー・岩井憲)が作り込まれていることです(画像参照・番組HPから)。言うまでもなく、そうした作り込みが映画やドラマの完成度を上げるわけですが、そこに驚異のVFXとの合成影像が組み合わさっているのです。そして、それらを、まったく不自然さを感じさせずに繋いでみせる、監督・塚原あゆ子の執念のような演出も、すごいとしか言いようがありません。
それぞれの時代の気分や雰囲気をどのように影像に描けるか。これは映画・ドラマなどの影像制作において本質とも言える課題です。「海に眠るダイアモンド」では、その課題に対して、ついにここまで作れてしまったという事態を示しています。このレベルにまで来てしまうと、その影像は、空間を実際に造る側も大きく揺さぶるものになっていると思われます。気分や雰囲気を、空間に作り出すにはどうすればよいのか。